「そろそろ遺言書を作っておかないと…」 多くの開業医の先生が、こうした思いを一度は抱いたことがあるのではないでしょうか。ご家族や顧問税理士、金融機関などから勧められて、実際に作成された方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私が支援するなかで見えてくるのは、「遺言書を書いておけば安心」という考え方が、必ずしも家族の安心につながるとは限らない、というのが実際のところです。
本記事では、特に開業医に特有の相続リスクと、遺言書の「効力と限界」を整理したうえで、真に“安心”をつくるための次のステップについて解説します。
遺言書があるのに揉める?その理由とは

遺言書は、相続人の間で争いが起きるのを防ぐための大切な手段です。
にもかかわらず、現実には「遺言書があるのに揉めた」、「遺言書が原因で揉めた」という事例も少なくありません。
その理由の多くは、次の3つに集約されます。
① 家族が“内容を知らない
遺言書はしばしば、「書いたことすら知らされていない」状態で発見されます。突然の文書に、残された家族が動揺し、内容に不信感を抱くことも。
② 資産の分け方が“理解されていない”
「なぜ兄に診療所の土地と建物や医療法人の出資持分を集中して相続させたのか?」
背景が説明されていないと、他の相続人は“えこひいき”と感じてしまいます。
③ 相続財産の構成が“複雑で納得できない”
持分あり医療法人の出資持分、個人開設の診療所の事業用財産、自宅兼診療所、収益不動産など…
分割しづらい資産構成のまま「この通りに分けてください」と一方的に書かれても、実行段階で問題が生じやすくなります。
にもかかわらず、現実には「遺言書があるのに揉めた」、「遺言書が原因で揉めた」という事例も少なくありません。
その理由の多くは、次の3つに集約されます。
① 家族が“内容を知らない
遺言書はしばしば、「書いたことすら知らされていない」状態で発見されます。突然の文書に、残された家族が動揺し、内容に不信感を抱くことも。
② 資産の分け方が“理解されていない”
「なぜ兄に診療所の土地と建物や医療法人の出資持分を集中して相続させたのか?」
背景が説明されていないと、他の相続人は“えこひいき”と感じてしまいます。
③ 相続財産の構成が“複雑で納得できない”
持分あり医療法人の出資持分、個人開設の診療所の事業用財産、自宅兼診療所、収益不動産など…
分割しづらい資産構成のまま「この通りに分けてください」と一方的に書かれても、実行段階で問題が生じやすくなります。
開業医特有の相続リスク

開業医の相続には、一般家庭とは異なるいくつかの特徴的なリスクがあります。代表的なものを3つに整理すると、次のようになります。
① 医療法人の出資持分や診療所の不動産は“分けづらい資産”
・医療法人の出資持分は評価額が高くなりやすく、法的な取り扱いも複雑
・出資持分や診療所の土地・建物は、後継者がまとめて相続するケースが多く、他の相続人と不公平感が生じやすい
② 事業と個人資産が密接に絡んでいる
・自宅と診療所が同じ建物内にある、または敷地が隣接している
・個人事業の場合、生活費が事業用の口座から支払われていることもあり、経営と生活が混在しやすい
③ 相続人間の関係性に温度差がある
・医師の子と、医師でない子の間で「自分が継ぐ/継がない」という立場の違いから理解や期待にギャップが生じることがある
・相続人が日常的に経営に関わっていたかどうかで、「自分の貢献をどう評価するか」という主張に差が出やすく、話し合いが難航することもある
こうした前提がある中で、「とりあえず遺言書を作っておこう」と一人で進めてしまうと、かえって家族間の不信や混乱を招くリスクがあるのです。
① 医療法人の出資持分や診療所の不動産は“分けづらい資産”
・医療法人の出資持分は評価額が高くなりやすく、法的な取り扱いも複雑
・出資持分や診療所の土地・建物は、後継者がまとめて相続するケースが多く、他の相続人と不公平感が生じやすい
② 事業と個人資産が密接に絡んでいる
・自宅と診療所が同じ建物内にある、または敷地が隣接している
・個人事業の場合、生活費が事業用の口座から支払われていることもあり、経営と生活が混在しやすい
③ 相続人間の関係性に温度差がある
・医師の子と、医師でない子の間で「自分が継ぐ/継がない」という立場の違いから理解や期待にギャップが生じることがある
・相続人が日常的に経営に関わっていたかどうかで、「自分の貢献をどう評価するか」という主張に差が出やすく、話し合いが難航することもある
こうした前提がある中で、「とりあえず遺言書を作っておこう」と一人で進めてしまうと、かえって家族間の不信や混乱を招くリスクがあるのです。
遺言書には「効力」がある。でも、それだけで「納得」は生まれない

遺言書には民法上の法的効力があり、遺留分にさえ配慮していれば、基本的には書いたとおりに遺産を分けることができます。しかし、法的効力があっても、それだけで家族の“納得”を得られるとは限りません。
たとえばある開業医の方は、医療法人の出資持分の全てと診療所の土地建物を長男(医師)に相続させる遺言を残しました。
ところが、他の子どもたちはこう受け止めました。
「確かに兄は診療所を継ぐけれど、それって本当に公平なの?」
「父が亡くなるまで、私たちには一言も相談がなかった」
このように、“説明のない遺言”は、ときに争いの火種にもなり得るのです。
さらに重要なのは、たとえ公正証書遺言が存在していても、そのとおりに遺産が分けられるとは限らないという現実です。なぜなら、遺言書に法的効力があっても、相続人全員が合意すれば、内容を変更して遺産分割協議を行うことができるからです。
実際に私が支援したケースでは、被相続人が「山林を医師でない弟に相続させる」という公正証書遺言を残していました。この遺言は金融機関の提案により、弁護士の関与のもとで作成されたものでした。しかし、遺言書の作成に相続人が関与しておらず、弟さんもその内容を事前に知らされていませんでした。その結果、弟さんは、次のような理由から山林の相続に強い不安を感じ、相続を望みませんでした。
・毎年の固定資産税こそ少額でも、実際には継続的な管理コストが大きな負担となる
・山林の維持には伐採や下刈りなどの作業が必要で、森林組合などへの委託費用がかかる
・杉などの立木は、生育に数十年単位の時間を要するため、相続してもすぐに売って現金化できない
・山林そのものを売却すること自体が簡単ではなく、買い手がすぐに見つかるとは限らない
・仮に売却できたとしても、先祖から受け継いだ土地を手放すことには心理的な抵抗がある
・将来的に利用する予定もなく、名義を移されても自分にはメリットがない
つまり、サラリーマン家庭の弟さんには、現実的に山林の維持は難しかったのです。最終的には、兄である医師が山林を相続する形で遺産分割協議がまとまりました。弟さんの事情に配慮した結果、家族間の納得感を優先した柔軟な対応が取られたのです。
要するに、遺言書は「たたき台」にはなっても、「絶対的な決定」にはならないのです。
だからこそ、遺言書を作成する前に、家族と話し合いを持つことが欠かせません。
背景や思いをあらかじめ共有し、相続人の理解と合意を得たうえで作成された遺言こそが、本当に“安心”をもたらす、意味のある遺言書となります。
たとえばある開業医の方は、医療法人の出資持分の全てと診療所の土地建物を長男(医師)に相続させる遺言を残しました。
ところが、他の子どもたちはこう受け止めました。
「確かに兄は診療所を継ぐけれど、それって本当に公平なの?」
「父が亡くなるまで、私たちには一言も相談がなかった」
このように、“説明のない遺言”は、ときに争いの火種にもなり得るのです。
さらに重要なのは、たとえ公正証書遺言が存在していても、そのとおりに遺産が分けられるとは限らないという現実です。なぜなら、遺言書に法的効力があっても、相続人全員が合意すれば、内容を変更して遺産分割協議を行うことができるからです。
実際に私が支援したケースでは、被相続人が「山林を医師でない弟に相続させる」という公正証書遺言を残していました。この遺言は金融機関の提案により、弁護士の関与のもとで作成されたものでした。しかし、遺言書の作成に相続人が関与しておらず、弟さんもその内容を事前に知らされていませんでした。その結果、弟さんは、次のような理由から山林の相続に強い不安を感じ、相続を望みませんでした。
・毎年の固定資産税こそ少額でも、実際には継続的な管理コストが大きな負担となる
・山林の維持には伐採や下刈りなどの作業が必要で、森林組合などへの委託費用がかかる
・杉などの立木は、生育に数十年単位の時間を要するため、相続してもすぐに売って現金化できない
・山林そのものを売却すること自体が簡単ではなく、買い手がすぐに見つかるとは限らない
・仮に売却できたとしても、先祖から受け継いだ土地を手放すことには心理的な抵抗がある
・将来的に利用する予定もなく、名義を移されても自分にはメリットがない
つまり、サラリーマン家庭の弟さんには、現実的に山林の維持は難しかったのです。最終的には、兄である医師が山林を相続する形で遺産分割協議がまとまりました。弟さんの事情に配慮した結果、家族間の納得感を優先した柔軟な対応が取られたのです。
要するに、遺言書は「たたき台」にはなっても、「絶対的な決定」にはならないのです。
だからこそ、遺言書を作成する前に、家族と話し合いを持つことが欠かせません。
背景や思いをあらかじめ共有し、相続人の理解と合意を得たうえで作成された遺言こそが、本当に“安心”をもたらす、意味のある遺言書となります。
専門家が考える 開業医のための「もう一歩先」の相続準備

では、どうすればよいのでしょうか?
私がおすすめしているのは、次のような考え方です。
遺言書を“つくる前”に、家族と話し合う時間を持ちましょう。
遺言書は「仕上げ」であって、「スタート」ではありません。
本当に家族に安心してもらいたいなら、その内容が“突然”であってはいけません。
・なぜこのような分け方にするのか
・家族の生活をどう考えているか
・誰に医業を託すのか、その代わり他の人には何を配慮するのか
こうした背景を、家族と共有し、納得してもらったうえで文書化することが、最も“争わない遺言”をつくる方法だと考えています。
最近、遺言書作成をご希望されるお客様が増えていますが、お話を聞いていくと「これはまず家族会議からですね」というケースがほとんどです。この記事をきっかけに、ご家族と話す第一歩を踏み出していただけたら嬉しいです。
私がおすすめしているのは、次のような考え方です。
遺言書を“つくる前”に、家族と話し合う時間を持ちましょう。
遺言書は「仕上げ」であって、「スタート」ではありません。
本当に家族に安心してもらいたいなら、その内容が“突然”であってはいけません。
・なぜこのような分け方にするのか
・家族の生活をどう考えているか
・誰に医業を託すのか、その代わり他の人には何を配慮するのか
こうした背景を、家族と共有し、納得してもらったうえで文書化することが、最も“争わない遺言”をつくる方法だと考えています。
最近、遺言書作成をご希望されるお客様が増えていますが、お話を聞いていくと「これはまず家族会議からですね」というケースがほとんどです。この記事をきっかけに、ご家族と話す第一歩を踏み出していただけたら嬉しいです。