BLOG ブログ

個人開業より医療法人が事業承継をしやすい理由~医療法人化を事業承継の観点から考える~

個人開業より医療法人が事業承継をしやすい理由~医療法人化を事業承継の観点から考える~

医療法人化は「経営の安定化」や「資金面の合理化」を目的に検討されることが多いですが、実は事業承継を見据えたときこそ、その真価を発揮します。

個人開設と医療法人開設では、事業承継の仕組みが根本的に異なり、対応を誤るとクリニックの継続に大きな支障をきたすこともあります。

本記事では、両者の違いとともに、医療法人化がなぜ事業承継に有効なのか、そして注意すべき点をわかりやすく整理します。

個人開設クリニックの事業承継の仕組み

個人開設クリニックの事業承継の仕組み
個人開設のクリニックでは、「開設者=医療行為の責任者」です。
つまり、院長本人が開設者として診療所を運営している形です。

このため、開設者が死亡・引退した場合には、そのままでは開設を継続できず、廃止届を提出する必要があります。

その後、事業を引き継ぐ場合には、改めて診療所開設届を提出して再開設する流れになります。
行政との事前調整を行えば、実務上は診療を途切れさせずに承継できるケースもありますが、形式上の手続きは避けられません。

さらに、個人開設では契約主体が院長個人となるため、クリニックの賃貸借契約、スタッフの雇用契約、医療機器のリース契約なども、改めて契約を結び直す必要があります。このように、制度面・契約面の両方で事業承継の手続きが煩雑になりやすい点が、個人開業の特徴といえます。

医療法人開設クリニックの事業承継の仕組み

医療法人開設クリニックの事業承継の仕組み
一方、医療法人開設のクリニックでは、「開設者=法人」です。
理事長が交代しても法人自体は存続するため、事業や契約が途切れません。
建物の賃貸借契約、リース契約、職員の雇用契約、保険医療機関の指定なども、法人名義で継続可能です。

事業承継の際は、理事長交代の手続きや、社員(社員総会)の承認が中心となります。この仕組みが、医療法人の最大の強みといえます。

特に、後継者が医師であれば、スムーズに理事長職を引き継げるため、地域医療の継続性を確保しやすいのです。

医療法人化が事業承継に有効な理由

医療法人化が事業承継に有効な理由
医療法人化は、経営の安定化や資金面の合理化だけでなく、事業の継続性と承継のしやすさにおいても真価を発揮します。

現在、新たに設立できるのは「持分なし医療法人」です。これは、平成19年3月31日まで設立が認められていた「持分あり医療法人」とは異なります。同年4月1日施行の第5次医療法改正により、以後は持分なし医療法人しか新たに設立できなくなりました。

「持分あり医療法人」では、出資者が法人財産に対して出資持分という財産権を有しており、出資者が死亡した場合、その出資持分が相続財産として課税対象となります。法人の利益が蓄積されるほど出資持分の評価額も上昇するため、相続税負担が増大するという問題がありました。

一方、「持分なし医療法人」には、そもそも出資持分という概念が存在しません。とくに基金拠出型医療法人では、拠出した金銭や財産は「基金」として扱われ、性質的には法人への金銭の貸付け(いわば劣後債)に近いものです。

基金には額面金額分の返還請求権しかなく、法人の利益蓄積によって評価額が上がることはありません。つまり、法人の内部留保がどれほど増えても、基金の評価は変動せず、額面金額のみが相続税の課税対象となります。この仕組みにより、「持分なし医療法人」では、事業承継時の税務負担を大幅に抑えられるとともに、経営の継続性を損なうことなく、次世代への円滑な引き継ぎが可能となります。

さらに、第三者への承継についても、出資持分の譲渡ではなく、社員(社団医療法人の構成員)の入社・退社、またはクリニックの事業譲渡によって行われます。この際、役員が役員退職金の受給を受けることで、第三者への承継も実務的かつスムーズに進めやすくなっています。

医療法人の出資持分を分散するとどうなる?

医療法人化の注意点

医療法人化の注意点
もっとも、医療法人化には注意すべき点もあります。

まず、持分なし医療法人の残余財産は、解散時に国や地方公共団体などへ帰属します。
ただし、運営期間中に積み上げた内部留保は、役員退職金として支給することが可能です。退職金の原資を確保するために、生命保険を活用した役員退職金準備を行える点は、個人事業にはないメリットになります。

一方で、利益が一定以上蓄積されると、交際費の損金算入が制限されるなど、法人税法上の規制が強くなります。また、法人運営には行政への届出・資産総額登記・社員総会および理事会の運営など、法人としての管理体制が求められます。これらを適切に実施するためには、専門家のサポートを得ながら進めることが重要です。

まとめ 次世代へつなぐ、医療法人という選択

医療法人化は、経営の効率化や資金面の合理化だけでなく、事業承継の円滑化においても大きな効果を発揮します。個人開業のままでは、院長の死亡や引退時にクリニックの継続が途切れる可能性が高く、一方で、医療法人であれば組織として事業を引き継ぐことができます。

もちろん、法人化にはデメリットや制約もありますが、長期的に見れば「事業の持続性」という大きな安心を得られる仕組みです。後継者の有無・年齢・今後の展望などを踏まえ、早い段階から承継を見据えた法人化の検討を始めることをおすすめします。

CONTACT
お問い合わせ

合同会社スエミツへのご質問などは、
以下のフォームから
お気軽にお寄せくださいませ。