相続の準備として「孫を養子に迎える」という選択肢をご存じでしょうか。これは法定相続人の数に影響するため、制度上一定のメリットがあるとされる方法です。しかし、家族間の理解や合意がないまま進めると、後に大きなわだかまりを残す可能性があります。
今回は、ある開業医のご家庭における「孫養子の話」をめぐって、兄弟間のバランスや公平感に配慮しながら、家族会議を通じて合意に至った事例をご紹介します。
開業医の家庭における相続対策 “孫養子”という選択に潜む感情の火種

開業医のご夫妻から、「長男の子どもを自分たちの養子に迎えたい」という相談を受けたのは、数年前のことでした。
長男は医師で診療所を継ぐ予定となっており、その子どもを養子に迎えることで制度上の一定の効果があると、顧問税理士から説明を受けていたのです。開業医ご夫妻は、「これでいけば税金は少なくなるようだし、メリットが多そう」と考え、養子縁組を前向きに捉えていたようでした。
しかし、私はこれは制度の問題だけでなく、家族の感情面にも関わる重大な判断だと捉え、長男・次男を交えた家族会議での話し合いを勧めました。
長男には子どもが2人、次男にも2人の子どもがいます。仮に長男の子ども1人だけを養子に迎えれば、結果として「孫4人のうち1人だけが特別扱いされる」ことになります。その事実が兄弟間・従兄弟同士の関係性にどのような影響を及ぼすか、慎重な配慮が必要でした。
長男は医師で診療所を継ぐ予定となっており、その子どもを養子に迎えることで制度上の一定の効果があると、顧問税理士から説明を受けていたのです。開業医ご夫妻は、「これでいけば税金は少なくなるようだし、メリットが多そう」と考え、養子縁組を前向きに捉えていたようでした。
しかし、私はこれは制度の問題だけでなく、家族の感情面にも関わる重大な判断だと捉え、長男・次男を交えた家族会議での話し合いを勧めました。
長男には子どもが2人、次男にも2人の子どもがいます。仮に長男の子ども1人だけを養子に迎えれば、結果として「孫4人のうち1人だけが特別扱いされる」ことになります。その事実が兄弟間・従兄弟同士の関係性にどのような影響を及ぼすか、慎重な配慮が必要でした。
家族会議で考える開業医の相続 “決定”ではなく“相談”が出発点

家族会議には、ご両親と長男、次男の4人が集まりました。冒頭、父親がこう切り出しました。
「今日は、“長男の子どものうち1人を養子に迎える”ということについて、みんなに聞いてほしい。制度上の意味もあるし、うちの状況に合わせて考えた案だけど、勝手に決めたわけではない。みんなの意見を聞きたいと思っている」
このように「まだ決めていない」、「みんなで相談したい」というスタンスは、家族間の信頼の土台になります。一方的に伝えるのではなく、対話のきっかけとして持ちかけたことで、次男も構えることなく話を聞く姿勢を示してくれました。
長男からも、「自分の家族が優遇されているように見えるのではと気になっていたし、自分の子ども同士が公平でなくなることにも心を痛めていた」と素直な気持ちが語られ、家族会議は率直かつ建設的に進んでいきました。
「今日は、“長男の子どものうち1人を養子に迎える”ということについて、みんなに聞いてほしい。制度上の意味もあるし、うちの状況に合わせて考えた案だけど、勝手に決めたわけではない。みんなの意見を聞きたいと思っている」
このように「まだ決めていない」、「みんなで相談したい」というスタンスは、家族間の信頼の土台になります。一方的に伝えるのではなく、対話のきっかけとして持ちかけたことで、次男も構えることなく話を聞く姿勢を示してくれました。
長男からも、「自分の家族が優遇されているように見えるのではと気になっていたし、自分の子ども同士が公平でなくなることにも心を痛めていた」と素直な気持ちが語られ、家族会議は率直かつ建設的に進んでいきました。
孫養子と相続税の関係 専門家が支える制度と感情の調整

このタイミングで、顧問税理士から制度面の補足説明がありました。
孫を養子にすることで、法定相続人が1人増え、基礎控除も増加します。また、相続税の総額を計算する際に使われる税率の適用にも影響があり、結果的に税負担が軽減されることもあります。
ただし、実子がいる場合、養子は1人までしか法定相続人としてはカウントされません。つまり、基礎控除や、相続税の総額を計算する際に使われる税率の適用に影響するのは、1人に限られます。
また、孫養子は、「代襲相続人」ではないため、原則として相続税の2割加算の対象になります。一方で、孫を養子に迎えることで、”子世代を介さずに孫世代へ一代飛ばして早期に財産を移転できる”という効果があり、将来の相続対策や資産承継の観点では一定のメリットが期待できます。
長男からは「養子にしたら実の親との関係が変わるのでは?」という不安の声も出ました。
これに対して税理士はこう説明しました。
祖父母が孫を養子にしても、実親との親子関係が消えるわけではありません。戸籍上は“実親の子”でありながら、“祖父母の養子”にもなる二重の親子関係が成立します。これは法律上問題なく、実態上の関係性も変わりません。
また、祖父母と息子家族の姓が同じであれば、孫の苗字が変わることもありません。姓が変わるとなると、心理的な違和感だけでなく、実生活における様々な支障が生じる可能性もあります。今回のケースでは、姓が変わることはありませんので、その点も安心材料のひとつになると思います。
制度面の整理を踏まえ、私は感情面についてこう補足しました。
「今回の話は、制度上の損得だけの問題だけではなく、家族全員が納得できる形をどう作るかが本質です」
この言葉を受けて、次男からも率直な意見がありました。
「別に財産の分け方に口出しをしたいわけじゃない。でも、兄の子どもだけが養子になっていたら、私の子どもたちは“どうしてうちは違うの?”と感じるかもしれない」
このような発言を通じて、ご両親も「制度としての効果」と「家族の感情としての公平感」は別物であることを改めて理解されたようでした。
孫を養子にすることで、法定相続人が1人増え、基礎控除も増加します。また、相続税の総額を計算する際に使われる税率の適用にも影響があり、結果的に税負担が軽減されることもあります。
ただし、実子がいる場合、養子は1人までしか法定相続人としてはカウントされません。つまり、基礎控除や、相続税の総額を計算する際に使われる税率の適用に影響するのは、1人に限られます。
また、孫養子は、「代襲相続人」ではないため、原則として相続税の2割加算の対象になります。一方で、孫を養子に迎えることで、”子世代を介さずに孫世代へ一代飛ばして早期に財産を移転できる”という効果があり、将来の相続対策や資産承継の観点では一定のメリットが期待できます。
長男からは「養子にしたら実の親との関係が変わるのでは?」という不安の声も出ました。
これに対して税理士はこう説明しました。
祖父母が孫を養子にしても、実親との親子関係が消えるわけではありません。戸籍上は“実親の子”でありながら、“祖父母の養子”にもなる二重の親子関係が成立します。これは法律上問題なく、実態上の関係性も変わりません。
また、祖父母と息子家族の姓が同じであれば、孫の苗字が変わることもありません。姓が変わるとなると、心理的な違和感だけでなく、実生活における様々な支障が生じる可能性もあります。今回のケースでは、姓が変わることはありませんので、その点も安心材料のひとつになると思います。
制度面の整理を踏まえ、私は感情面についてこう補足しました。
「今回の話は、制度上の損得だけの問題だけではなく、家族全員が納得できる形をどう作るかが本質です」
この言葉を受けて、次男からも率直な意見がありました。
「別に財産の分け方に口出しをしたいわけじゃない。でも、兄の子どもだけが養子になっていたら、私の子どもたちは“どうしてうちは違うの?”と感じるかもしれない」
このような発言を通じて、ご両親も「制度としての効果」と「家族の感情としての公平感」は別物であることを改めて理解されたようでした。
公平感を大切にする相続対策 家族で話し合うという開業医の選択

話し合いの結果、以下の方針で家族の合意が得られました。
・長男の子ども1人を祖父母の養子とする方針に、全員が一定の理解を示す
・ただし、次男には金融資産の生前贈与や遺言による配分を検討し、経済的な不公平感の緩和に配慮する
・長男のもう1人の子どもや、次男の子どもたちについては、今後の資産移転やライフステージを踏まえ、自然なかたちで関与できるような援助を行っていく
・家族会議の内容を記録に残し、将来的な誤解や感情の行き違いを避ける
ポイントは「公平に分けること」ではなく、「公平に扱われたと感じられること」です。
結果として、次男も「きちんと説明してくれたことが嬉しかった」、「家族で話せてよかった」と語り、両親からも「こういう話こそ、きちんと家族で向き合うことが大事だと実感した」との感想がありました。
・長男の子ども1人を祖父母の養子とする方針に、全員が一定の理解を示す
・ただし、次男には金融資産の生前贈与や遺言による配分を検討し、経済的な不公平感の緩和に配慮する
・長男のもう1人の子どもや、次男の子どもたちについては、今後の資産移転やライフステージを踏まえ、自然なかたちで関与できるような援助を行っていく
・家族会議の内容を記録に残し、将来的な誤解や感情の行き違いを避ける
ポイントは「公平に分けること」ではなく、「公平に扱われたと感じられること」です。
結果として、次男も「きちんと説明してくれたことが嬉しかった」、「家族で話せてよかった」と語り、両親からも「こういう話こそ、きちんと家族で向き合うことが大事だと実感した」との感想がありました。
【まとめ】制度の前に話し合いを 開業医のための相続対策の本質

家族で相続について話し合う。それは、円満な家族関係を維持するための「基本」かもしれません。けれども、その“基本”こそが最も難しく、多くのご家庭では実践されていないのが実情です。そこで今回は、制度だけでは解決できない“相続対策の本質”について、開業医のご家庭で実際に行われた「家族会議」の事例を通じてお伝えしました。
相続に関わる制度は、確かに知っておくべき重要な知識です。しかし、それを活かすためには、まず家族全員の納得が欠かせません。とくに開業医のご家庭では、診療所や医療法人といった事業承継の問題が絡み、相続は単なる財産分与では済まないケースがほとんどです。
今回の「孫養子」をめぐる家族会議の事例は、制度と感情の両面をバランスよく整えることの重要性を示しています。「知らなかった」、「聞いていない」―限られた人だけで相続対策を進めてしまうと、こうした言葉が飛び交い、家族関係に深い傷を残すことがあります。
だからこそ、“話し合っておく”という準備こそが、最も確実な相続対策なのです。「うちは大丈夫」と思っている今こそ、家族会議を始めてみてはいかがでしょうか。
相続に関わる制度は、確かに知っておくべき重要な知識です。しかし、それを活かすためには、まず家族全員の納得が欠かせません。とくに開業医のご家庭では、診療所や医療法人といった事業承継の問題が絡み、相続は単なる財産分与では済まないケースがほとんどです。
今回の「孫養子」をめぐる家族会議の事例は、制度と感情の両面をバランスよく整えることの重要性を示しています。「知らなかった」、「聞いていない」―限られた人だけで相続対策を進めてしまうと、こうした言葉が飛び交い、家族関係に深い傷を残すことがあります。
だからこそ、“話し合っておく”という準備こそが、最も確実な相続対策なのです。「うちは大丈夫」と思っている今こそ、家族会議を始めてみてはいかがでしょうか。