遺言書よりも大切なこと　開業医のための「家族会議」という相続対策

そもそも、相続とは“法律の話”であると同時に、“家族の話”でもあります。
どれだけ法的に整った遺言書があっても、家族の「気持ち」が置き去りにされたままだと、結果として不信や不満が生まれかねません。

とくに、開業医の相続では以下のような点が、感情面のすれ違いを生みやすくします。
・「診療所を継ぐ長男には多額の資産が渡るのに、私には…」
・「なぜ何の説明もなく、突然こういう分け方になっているの？」
・「自分の存在は軽視されているのでは？」　

このような感情のもつれが、争いに発展するのです。

実際の相続実務においては、「法律上の取り分」よりも、「気持ちの納得」の方が、話し合いを円滑に進めるうえで遥かに重要になります。そして、その“納得感”を生み出す場が「家族会議」なのです。

家族会議の必要性がとくに高いのが、開業医のご家庭です。
それは、資産構成と家族構成に特徴があるからです。

➀資産の種類に偏りがある
医療法人の出資持分や診療所の土地建物といった、事業に直結した資産は、分けづらく・評価が高く・現金化が難しいという問題があります。

➁家族内の立場に違いがある
後継予定の医師である子と、それ以外の相続人との間には、貢献度や関与度に対する温度差があります。

③家庭と経営が密接に絡んでいる
自宅兼診療所や、自宅と診療所が隣接している場合は、建物の名義や土地の扱いが一層デリケートになります。

このような状況のなか、「親が決めた」内容が遺言書として突然提示されれば、誰しも困惑してしまうのは当然です。

家族会議とは、堅苦しい話し合いの場ではありません。むしろ「これからの家族の未来を考える対話の場」として、柔らかく、でも丁寧に進めていくことが大切です。

① まずは“話す場”をつくる
いきなり相続の中身に入るのではなく、「家族として今後のことを一度話し合っておきたい」という呼びかけから始めます。

とくに重要なのが、「誰が主催するか」です。
親自身が話し合いの場を持ちたいと発信すると、相続人にとっても前向きな意味づけができます。

② 親の思いや背景を丁寧に伝える
「なぜこのように資産を分けたいのか」、「家業を継ぐ人に何を託したいのか」─
こうした想いは、文書より“言葉”で伝える方が、深く伝わります。

たとえば、「診療所に関連する財産は長男に託す。でも、次男には現金を準備しておきたい」といった説明があるだけで、他の相続人の受け止め方は大きく変わります。

③ 意見を聞き、必要に応じて見直す
親の想いを一方的に押し付けるのではなく、相続人側の受け止め方や不安・要望を聞くことが、信頼関係の醸成につながります。

全員が完全に納得するのは難しいとしても、「話し合いに参加した」、「自分の意見が尊重された」という実感があれば、相続そのものへの納得度は高くなるものです。

とはいえ、いざ実行しようとすると、
・誰が司会をするのか？
・不満が出たらどう収拾するのか？
・専門的な質問にどう答えるのか？　

といった不安が出てくるかもしれません。

こうしたときは、第三者である専門家の同席が効果的です。
専門家がファシリテーターとして入ることで、話し合いを中立的・建設的に進めることができ、親が言いづらい本音や、相続人間の微妙な空気にも配慮した進行が可能になります。

また、専門的な制度の説明をその場で聞けるため、「誤解や思い込み」による不安の解消にも役立ちます。

相続対策というと、つい“税金対策”や“遺言書の作成”に目が向きがちです。
しかし、本当に重要なのは「家族にどう遺すか」「どう伝えるか」です。

その答えのひとつが、「家族会議」です。
家族会議を通じて、親の想いを伝え、相続人の声を聞き、相互理解を深めたうえで、最終的な形として遺言書を作成する─それが、開業医家庭における“争わない相続”の王道だと、私は考えています。

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きっと、その一歩が将来の安心につながるはずです。ご家族と将来の話をすることが、最良の「対策」になるかもしれません。