開業医の事業承継で後継者の成長を促すポイント

開業医が事業承継を進める際、多くは後継者が医師として成長することを優先し、経営については「まだ早い」と考えがちです。その結果、後継者が経営に関与する機会がほとんどなく、いざ経営を担おうとすると何を判断すればよいのかわからない状態に陥ることがあります。また、「自分がやった方が早い」、「失敗するとスタッフや患者さんに迷惑がかかる」と考え、院長がすべての意思決定を握ってしまうケースも少なくありません。こうした状況では、後継者が「考える機会」や「決断する経験」を持たないまま院長になることにより、後々のクリニック経営に支障をきたすことが懸念されます。

さらに、診療方針の違いも事業承継を難しくする要因の一つです。院長と後継者の診療方針が異なることは珍しくありません。しかし、医学は日進月歩で進化し、過去の常識が現在の最善策とは限りません。診療方針や診察時間の違いを「甘い」と決めつけるのではなく、互いの考えを尊重しながら意見を共有することが重要です。院長と副院長で定期的なミーティングを設けることで、後継者は院長の経験を学びながら、最新の医療知識を活かした診療を実践できるようになります。

後継者がいきなりクリニックの経営全体を担うのは難しいため、まずは小さな意思決定から経験を積むことが効果的です。例えば、新しい治療法の導入について副院長に意見を求める、スタッフの採用計画を考える、医療機器の導入に関する選択肢を検討するといった方法があります。小さな意思決定を繰り返すことで、後継者は自然と「自分で考え、判断する力」を身につけられます。

また、組織マネジメントや数値管理の基礎を学ぶ機会を設けることも重要です。スタッフの教育プランを策定することで人材育成の視点を養い、医療機器のリース契約や導入に関する判断を任せることで、コスト管理や資金計画に対する理解を深められます。こうした実践的な経験を積むことで、後継者は経営感覚を身につけ、将来的にスムーズに意思決定ができるようになります。

開業医の事業承継を円滑に進めるために、後継者が院長になったときに困らないよう、副院長の段階から経営の意思決定に関与することが必要です。例えば、クリニックの事業計画の策定を専門家と一緒に行う、診療報酬改定の影響を考える、広告・集患施策の立案を担当するといった経験を積むことで、どのように経営判断をすればよいかという基準や考え方を学ぶことができます。

さらに、経営の意思決定には数値管理の知識も欠かせません。顧問税理士との打ち合わせに参加し、試算表や決算書を一緒に確認する、クリニックの資金繰りについて学ぶといった機会を設けることで、徐々に経営の数字に慣れることができます。経営に関する数値や指標は完璧に理解する必要はありません。ある程度の知識があれば、専門家に相談しながら適切な判断ができるようになります。

開業医が事業承継を成功させるためには、院長が「何をするか」だけでなく、「どのようにサポートするか」も重要です。すべての決定を院長がしてしまうと、後継者はいつまで経っても判断できません。また、「まだ早い」と挑戦の機会を奪ってしまうと、失敗の経験を通じた成長の機会も失われてしまいます。さらに、「自分のやり方が正しい」と押し付けてしまうと、新しい時代に合ったやり方を取り入れられず、クリニックの発展を妨げることになります。

後継者の成長を促すためには、院長は「経営者」から「育成者」にシフトする意識を持つことが必要です。後継者が自分で考え、決断し、責任を持つ機会を意識的に増やすことが大切です。一方で、院長は安易に口を出さず、後継者が困ったときに常に信頼できる相談相手として後ろで大きく構えていることが望ましいです。

後継者の先生には、院長先生の他にも、顧問税理士やコンサルタントなど多くの味方が付いています。何事も失敗を恐れずにチャレンジしてください。安心して経営に取り組めるよう、私達専門家が実務面と精神面の両方をサポートします。どうぞお気軽にご相談ください。

後継者が成長することで、クリニックの未来はより明るくなります。ぜひ、今からできることを始めてみてください。